数値によって「正常」か「異常」かが定められることによる弊害は大きい。 「日本では、健康診断の結果、基準値から外れていると、 精密検査や投薬を“しなければならない”ことになっています。 これが、過剰な医療へつながります。」
その代表例が「血圧」 現在、日本国内での正常値は上が130mmHg未満、下が85mmHg未満とされている。
「世界で最初に血圧の正常値が統一的に公表されたのは1948年です。 このときは、上が180mmHg未満、下が110mmHg未満でした。 1977年に国際規約ができて、上が160mmHg未満、下が95㎜Hg未満になった。 私はこのくらいが適正数値だと考えています。 そこからまたさらに二段階くらいを経ていまの数値になっていますが、 医療界では“数値が下がれば製薬業界が喜ぶよね”という声が上がったほどです。」
加齢とともに血圧はむしろ上がるのが普通だと岡田さんが続ける。 「血管は年を重ねるとかたくなっていきますから、脳に血液が行きにくくなるんです。 血圧を上げて、脳や全身に血液を行き渡らせようとするのは自然の摂理といえる。 それを薬で無理に下げたことで、お風呂で失神したり、 トイレで倒れるという人は少なくない。」
健康診断につきものの「血液検査」にも数値の罠が待ち受ける。 「コレステロール値」もそのひとつ。
「これも年齢が上がれば高くなるもののひとつです。 たしかにコレステロール値が高いと男性は心筋梗塞になりやすいのですが、 女性の場合、閉経以後は自然と数値が増加するようになっているので、 さほど心配はいりません。」
そうした数値について“健診嫌い”を自認する解剖医で東京大学名誉教授の 養老孟司さんが話す。
「健康診断を受ければ、自分の体についての情報を得られます。 人は、持っている情報が多ければ多いほどいいと思い込んでいる節がありますが、 決してそんなことはありません。 それに、数字ばかりを見るということは、 自分の体についての判断を他人に任せるということ。
頭痛が1 週間続いているけれど数字に問題がないから健康だろうと決めつけたり、 逆に、特に不調は感じないけれど血圧が150mmHgだから どこかおかしいと思い込んだりしてしまう。 数値に振り回されて、本当の健康状態を見失っては本末転倒です。」
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